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こんにちは。弁護士の前田牧です。
先日、会社の取締役が労災の認定を受けたとのニュースがありました。
取締役は、通常は「労働者」に当たらないのですが、この件では「労働者」に該当すると判断されていて、大変珍しいケースといえます。
「通常は対象外の取締役に労災認定 労基署の不支給決定取り消し | 毎日新聞 (mainichi.jp)」(毎日新聞2021年4月23日)
そこで今日は、労働法の分野で時々問題になる「労働者性」についてお話ししたいと思います。
労働法の分野で「労働者性」が問題になる場面として二つの場合が考えられます。
一つは今回のように、取締役などの「経営者」とされている場合で、実質的には労働者なのではないかと思われる場合です。本当に経営者といえるのか、名ばかりなのかが問題になります。
もう一つは、請負や業務委託となっていても、実質的には雇用契約ではないかと思われる場合です。これも偽装請負として問題になりがちです。
どちらの場合も、本当に経営者や請負であれば、時間や業務については本人の裁量が大きいはずで、自分で時間や仕事内容を決めることができるはずですが、実際には時間や業務内容の縛りが大きく労働者と変わらないケースが多々あり、このような場合に労働者性が問題になってきます。
労働基準法上の労働者については、労基法9条に「使用される者で、賃金を支払われる者」と規定しています。
「使用される」とはつまり、指揮監督下で労働することを指します。誰かに指示されて、誰かの監督のもとで労働するということです。
「賃金を支払われる」とは、報酬が労務に対する対価であることを言います。典型的には何時間働いたら幾ら、と決めている場合になるでしょう。
ただ実際には個々のケースで判断が難しい場合も多く存在します。
こういった場合には、仕事の依頼や業務指示に対して「No」と言えるかどうか(許諾の自由の有無)、業務の内容ややり方についての指示命令があるかどうか、時間や場所の拘束があるか自由か、報酬は時間を基準にして支払われるのかなどの要素を検討して、個々のケースに即して労働者性を判断することになります。
(法的に労働者かどうか(契約が労働契約かどうか)をどういう観点から判断するかについては、「労働基準法研究会報告」1985年12月19日にわかりやすくまとめられています。)
毎日新聞が報じたケースについては、取締役会・部長会議に出席しておらず、会社全体に係る重要な方針を決定する立場になかったことから業務執行権をもっておらず、取締役としても職務も行なっていなかった反面、各種食料品の入庫・仕分・出庫業務という現業業務に従事していて、報酬もこの労働の対価としての賃金であるとの事情から、労働者に該当するとして、労災の認定に至ったようです。
(弁護士 前田)